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こうや

曠野

小川 未明

「民政」1933(昭和8)年8月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,963 字 · 6 页

青空文庫

それは、意地悪い風だったのです。伸びればますます強く荒く風はあたりました。

かえりみると、この木が、野原で大きくなった歴史は、まったく風との戦いであったといえるでありましょう。木はけっしてこのことを忘れません。ある年、台風の襲ったとき、危うく根こぎになろうとしたのを、あくまで大地にしがみついたため、片枝を折られてしまいました。そして、醜い形となったが、より強く生きるという決心は、それ以来起こったのであります。いまは、もはや、どんなに大きな風が吹いても倒れはしないという自信がもてるようになりました。

「野原の一本松。」

空をゆく雲や、頭の上を飛ぶ小鳥たちが、それを認めたばかりでない。ここを通る百姓もそういって呼べば、村の子供たちもみんな知っていたのであります。

木は、こうして大きくなりました。しかし頭を上げて、地平線を望んだけれど、あちらに山の頂と、黒い森と、ぽつりぽつり人家を見るだけで、けっして、そのはてを見ることはできませんでした。また、青い空は、ますます高く、白い雲は、はるかに上を飛んでいるのであって、けっして、自分の頭のうえをすぎるときに、歩みをとめて、話しかけてくれるようなことはなかったのです。