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つきかげ

月かげ

豊島 与志雄

「婦人公論」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,867 字 · 14 页

青空文庫

」

そう云って彼は無雑作に立上って、初めの自分の席から杯と飲み残しの銚子までも取って来た。その間に私はお光へ云った。

「大丈夫だよ、黙ってるから……。」

笑っていいか取澄ましていいか分らなそうな顔付をして、お光が私達の側に腰を下ろすと、私は向うの女達へも呼びかけた。

「おいみんな来てごらん。隅っこに引っこんでばかりいないで。」

エプロンをつけた四人の女達が並んだ中で、彼はにこにこしながら黙って酒を飲み初めた。が不意に、唄を一つ歌おうと云い出した。

「唄はいけませんよ、もう……。」

一番年上のが止めようとするのを、私は無理に制して、彼に歌わせた。彼は追分を一つ歌った。喫驚するほどいい声だった。皆感心して黙り込んでしまった。彼は歌い終って、またきょとんとした表情で、にこにこ笑いながら、だだ白いがらんとした室の中を見廻していたが、突然真面目な顔付になって云った。

「君達四人でジャンケンをしてごらん。」

「そしてどうするの。」

「勝った者に歌をうたわせようと云うのよ、屹度。」

「いやなことだわ。」

「いや、何でもないんだから、」と彼は云った、「とにかくジャンケンをしてごらん。