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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
別に気味わるくも感じなかった。死体はまだ温かかった。石炭ストーヴの熱気で、部屋は熱すぎるくらいなのだから、今から三四十分たっても、死体はまだ温かいだろうと考えた。
所要の品々がそろった。克彦はそれを丸テーブルの上に並べて点検したあとで、箒型のブラシと軍手の片方を手に持って、妙なことをはじめた。箒の先をひとつまみずつにわけ、それを軍手の指の中へおしこんで行くのだ。見るまに箒を芯にした一本の手が出来上がった。
「もうわかっただろう。君が股野の替玉になって一人芝居をやるのだ。股野は長髪だから、君の頭でいい。少しうしろへ掻き上げておけばいい。そして、ベレ帽をかむり、目がねをかけるんだ。それで鼻から上は出来上がる。鼻から下は、ホラ、この軍手で、こういうぐあいに隠すんだ。つまり、誰かが、うしろから君の口をおさえて、声を立てさせまいとしている恰好だ。君はその軍手を引きはなそうと自分の手をかけている気持で、実はこの箒の根もとを持って、口の前に支えていればいいのだ」
これらは、克彦が空想殺人の中で、たびたび考えて、繰り返し検算しておいたことだ。細かい点まで、手にとるようにわかっている。