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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

わかったかい」

あけみは深くうなずいて、畏敬のまなざしで恋人の上気した顔を見上げた。克彦はあわただしく腕時計を見た。八時十五分だ。

「これで演戯の方はすんだ。だが、もう一つやる事がある。君はあすこの金庫のひらき方を知っているね」

「股野はあたしにさえないしょにしていたけれど、自然にわかったの。ひらきましょうか」

「ウン、早くやってくれ」

克彦はあけみが金庫をひらいているあいだに、ストーヴの前に立って、石炭をなげこみ、灰おとしの把手をガチャガチャ云わせていた。

「その中に借用証書の束があるはずだ」

「ええ、あるわ。それから現金も」

「どれほど?」

「十万円の束が一つと、あと少し」

「貯金通帳や株券なんかはそのままにして、証文の束と現金だけ、ここへ持って来るんだ。金庫はあけっぱなしにしておく方がいい」

あけみがそれを持ってくると、克彦は証文の束をパラパラと繰って見た。ゆっくり調べているひまのないのが残念だ。彼の知人の名も幾人かあった。全体では大した金額だ。

「それ、どうなさるの?」

「ストーヴで焼いてしまうのさ。現金もいっしょだ」

「人助けね」

「ウン、犯人が人助けのために、証文を全部焼いて行ったと思わせるのだ。