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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
二人連れではない。この辺は一人で巡廻するのであろう。
克彦は歩き出した。二十歩もあるくと、股野家の門であった。門の外に立って、二階の窓を見た。窓の押し上げ戸が音を立ててひらかれた。室内はまっ暗だ。カーテンをかき分けるようにして、人の顔がのぞいた。ベレ帽、太い鼈甲縁の目がね、白い大きな手袋、茶色のジャンパー。
白い手袋がうしろから彼の口を覆っていた。苦しそうにもがいている。そして、おさえられた手袋のすきまから、
「助けてくれ……」
という、しわがれ声の悲鳴がほとばしった。
克彦はハッとして立ちすくんでいる恰好をした。うしろから、駈け出してくる靴音が聞こえた。パトロールの警官にも、低い塀ごしにあれが見えたのだ。
「助けて……」
もう一度悲鳴が。しかし、その声は途中でおさえられた。そして、窓の人影は、白い手袋に引き戻されるように、室内の闇に消えてしまった。あとには、月の光を受けたカーテンが、ユラユラとゆれているばかりだ。
「あなたは?」
警官は門内に駈けこもうとして、そこに突ッ立っている克彦に不審を抱いた。美少年と云ってもよい若い警官だった。
「ここは僕の友人の家です。