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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
「この板戸を破るのはわけないですが、裏口もしまっていたら、手間がかかって仕方がない。それよりも、玄関へ戻って、ドアをひらきましょう」
と云って、もうその方へ走り出していた。
「玄関のドアを破るのですか」
「いや、破る必要はありません。見ててごらんなさい」
警官はポーチに戻ると、ポケットから黒い針金のようなものを取り出した。そして、その先を少し曲げてドアの鍵穴に入れ、カチカチやって見て、また引き出しては曲げ方を変え、それを何度も繰り返している。
(オヤオヤ、これは錠前破りの手だな。近頃は警官もこんなことをやるのかしら。それにしても有難いぞ。板塀まで行って帰って来て、先生がコチコチやっているうちに、もう二分以上過ぎてしまった。これで五分間は持ちこたえたわけだ。針金で錠がはずれるまでには、まだ一二分はかかるだろうて)
だが、一分もたたないうちに、カチッと音がして、錠がはずれ、ドアがひらいた。その時は急いでいるので、そのまま屋内に踏みこんだが、ずっとあとになって、この美少年の警官は、錠前破りについて、こんなふうに説明した。
「僕は探偵小説を愛読してますが、中から鍵のかかっているドアを、急いでひらく場合には、巡査が体当りでドアを破るのが定法のようになっていますね。