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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
しかし今の巡査はそんな野蛮な真似をしなくていいのですよ。針金一本で錠前をはずすという手は、もとは錠前破りの盗賊が考え出したことです。しかし、賊が発明したからと云って、警察がこれを利用して悪いという道理はありません。近年はわれわれのような新米警官でも、針金でドアをひらく技術を教えられているんですよ。この方が体当りで破るよりも、かえって早いのですからね」
さて、二人はまっ暗なホールに踏みこんだが、シーンと静まり返って、人の気配もない。
「もしもし、だれかいませんか」
「股野君、奥さん、姉やもいないのか」
二人が声をそろえてどなっても、何の反応もなかった。
「誰もいないのでしょうか」
「構いません、二階へ上がって見ましょう。ぐずぐずしている場合じゃありません」
(また今のまに、一分ほど経過したぞ。もういくらせき立てても大丈夫だ)
ふたりは階段を駈け上がって、書斎のドアの前に立った。
「さっきの窓はこの部屋ですよ。主人の書斎です」
克彦は云いながら、ドアの把手を廻した。
「だめだ。鍵がかかっている」
「ほかに入口は?」
「隣の寝室からもはいれます。あのドアです」
今度は警官が把手を廻して見た。