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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

「待っていたよ。さあ、あがりたまえ」

二階の書斎にはムンムンするほどストーヴが燃えていた。天井を煙突の這っている石炭ストーヴだ。寒がり屋の股野は、これでなくては冬がすごせないと云っていた。

一方の壁にはめこみの小金庫がある。イギリスものらしい古風な飾り棚がある。一方のすみに畳一畳もある事務机、まん中には客用の丸テーブル、ソファー、アームチェア、いずれも由緒ありげな時代ものだが、これらは皆、元金ではなくて利息の代りに取り上げた家具類である。

克彦が入口の長椅子にオーバーをおいて、椅子にかけると、股野は飾り棚からウィスキーの瓶とグラスを出して、丸テーブルの上においた。高利貸しらしくもないジョニー・ウォーカーの黒である。これもむろん利息代りにせしめたものであろう。

股野は二つのグラスにそれをつぎ、克彦が一と口やるうちに、彼はグイとあおって、二杯目をついだ。

「直接法で行こう。わかっているだろうね、今日の用件は?」

股野はいつもの通り、太い鼈甲縁の目がねをかけ、黒のズボンに茶色のジャンパーを着て、詩人めいた長髪に紺のベレ帽をかむっていた。室内でも脱がない習慣である。