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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

そのとき、廊下の方のドアがスーッとひらいて、ひとりの男がはいって来た。

克彦とあけみは互にひしと抱き合って、彼らの方こそ幽霊ででもあるような、恐ろしい形相になって、その男を見つめた。

「ア、花田さん……」

すると、男はゆっくりとベッドに近づきながら、

「僕ですよ。花田ですよ。あなた方はお気の毒ですねえ。今ドアのそとで、あなた方のお話を聞きましたが、こういう苦しみをつづけていては、死んでしまいますよ。それよりも、気持を変えて、楽になられたらどうでしょうね」

(じゃあ、こいつは立ち聞きをしていたんだな。すっかり聞かれてしまった。だが、だが、どこに証拠があるんだ。そんなこと喋べらなかったと云えば、おしまいじゃないか)

「君は何の権利があって、人のうちへ無断ではいって来たんだ。出て行きたまえ。すぐに出て行ってもらおう」

「ひどいことを云いますねえ。僕は君のマージャン友達、トランプ友達、そして、呑み仲間じゃありませんか。だまってはいって来たって、そんなに他人行儀に怒られるはずはないのですがねえ。それよりも、北村さん、今いう通り、楽になられてはどうですか」

花田はニコニコ笑っていた。