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つきよとめがね
月夜と眼鏡
小川 未明
「赤い鳥」赤い鳥社、1922(大正11)年7月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,679 字 · 8 页
おばあさんは、いま自分はどこにどうしているのすら、思い出せないように、ぼんやりとして、夢を見るような穏やかな気持ちですわっていました。
このとき、外の戸をコト、コトたたく音がしました。おばあさんは、だいぶ遠くなった耳を、その音のする方にかたむけました。いま時分、だれもたずねてくるはずがないからです。きっとこれは、風の音だろうと思いました。風は、こうして、あてもなく野原や、町を通るのであります。
すると、今度、すぐ窓の下に、小さな足音がしました。おばあさんは、いつもに似ず、それをききつけました。
「おばあさん、おばあさん。」と、だれか呼ぶのであります。
おばあさんは、最初は、自分の耳のせいでないかと思いました。そして、手を動かすのをやめていました。
「おばあさん、窓を開けてください。」と、また、だれかいいました。
おばあさんは、だれが、そういうのだろうと思って、立って、窓の戸を開けました。外は、青白い月の光が、あたりを昼間のように、明るく照らしているのであります。
窓の下には、脊のあまり高くない男が立って、上を向いていました。男は、黒い眼鏡をかけて、ひげがありました。