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ふくそうについて

服装に就いて

太宰 治

「文藝春秋」1941(昭和16)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,180 字 · 25 页

青空文庫

」家内は一枚一枚きたながらずに調べて、「これなどは、純毛ですよ。仕立直しましょう。」

見ると、それは、あのセルである。私は戸外に飛び出したい程に狼狽した。たしかに倉庫に置いて来た筈なのに、どうして、そのセルが風呂敷包の中にはいっていたのか、私にはいまもって判らない。どこかに手違いがあったのだ。失敗である。

「それは、うんと若い時に着たのだよ。派手なようだね。」私は内心の狼狽をかくして、何気なさそうな口調で言った。

「着られますよ。セルが一枚も無いのですもの。ちょうどよかったわ。」

とても着られるものではない。十年間、倉庫に寝かせたままで置いているうちに、布地が奇怪に変色している。謂わば、羊羹色である。薄赤い縦横の縞は、不潔な渋柿色を呈して老婆の着物のようである。私は今更ながら、その着物の奇怪さに呆れて顔をそむけた。

ことしの秋、私は必ずその日のうちに書き結ばなければならぬ仕事があって、朝早く飛び起き、見ると枕元に、見馴れぬ着物が、きちんと畳まれて置かれてある。れいのセルである。そろそろ秋冷の季節である。洗って縫い直したものらしく、いくぶん小綺麗にはなっていたが、その布地の羊羹色と、縞の渋柿色とは、やはりまぎれもない。