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あさのかぜ
朝の風
宮本 百合子
「日本評論」1940(昭和15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页
設備万端が改善されて、人が自由に暮すアパートのようだと語られているのであった。そして近日内部を公開して一般に見せるという記事である。
とある低い崖の上の小さな家の縁側で、サヨがその新聞記事に目をとめた。
「あら」
膝をのり出すようにもう一度その記事の上へ視線をあつめた。
「ちょいと、これ……わたし達みられるのかしら。――見たいわ」
いくらか上気したような頬をあげて、その新聞をわたした対手はこの家にいるべき筈の重吉ではなくて、編ものをもって一人暮しのサヨのところへ遊びに来ている友子であった。
「本当にどうなんだろ……でも行ってみましょうよ、ともかく」
「ねえ」
サヨは友達の思いやりをよろこぶ表情で、
「私なんかには、ぜひみせてくれたっていいわけなんですもの」
だって、家族なんですものという心持をあらわして笑った。
ほんとにサヨはその内を一目みたい気がした。ああこんなところに暮して、こんな廊下も歩くのか。そうわかったら、どんなに重吉の一日も現実的に感じられて、こちらの気が楽になるだろう。
勤め先の事務所で名簿の整理をしながらも、サヨは子供っぽいような熱心さで時々それを空想した。