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あさやけ
朝やけ
豊島 与志雄
「光」1947(昭和22)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页
」
ごつごつしてること、感情的にも身体的にもごつごつしてること、それは彼女の豊かな肉体には一種の快適な刺戟ではあろう。だが、中野はいったい彼女にとってどうなのか。おれとああいう仲になってから、中野を見る彼女の眼眸はますますやさしさを増したことを、おれは知っている。中野に耳をしゃぶらせ、くすぐったくて飛び上ったではないか。それ以上の肉体的交渉は、彼等の間になさそうだが、それが却っておれに不安を与えるのだ。おれはいつしか中野を避けるようになってしまった。だが彼の幻影は、彼女との抱擁の中にまでつきまとってくる。それでもおれは一人になると、へんに肌がうすら淋しく、ふくよかな彼女の体温が恋しくなる。そしてしばしば、夜明しの酒飲みに、つまり泊りに行った。
おれはなるべく他の客達と顔を合わせるのを避けた。「マダム」の愛人らしい振舞いではなく、その間男らしい振舞いなのだ。他の客達の中心には、言うまでもなく中野卯三郎がいた。そしてややもすると、彼からおれの方へ押しよせてきた。
それでも、やはり、おれは虚勢を張って、酒場で早くから飲みだすこともあった。喜久子は何喰わぬ風を装っているが、語調や素振りの些細な点で、おれとの親昵を曝露してしまう。