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きのうえとしたのはなし
木の上と下の話
小川 未明
「台湾日日新報 夕刊」1940(昭和15)年5月7、8日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,558 字 · 8 页
前には、この年とったねこにいじめられたこともあったろうが、いまはすべて忘れているようです。
「どうしたんですか。」と、若いねこが、ききました、年とったねこも、ちょっと足をとめて、
「私は、体がわるいのだから、どうかそばへ寄らないでおくれ。」と、力なくいいました。
「どこが、わるいのですか。」
「なにか、毒になるものを食べたとみえて、ここまで歩くのがやっとなんだよ。」
「そんな気の弱いことでどうするんですか。私たちは、よくあなたに追いかけられたものです。あの時分の元気を出してください。」
「もう、そんなことをいっておくれでない。私は、これから身を隠す場所を探そうと思っているのだ。」
「あなたがいなくなれば、私は、ここで威張ることができます。たとえ、威張ることができても、私は、うれしいと思いません。」
「おまえさんの天下になるのに、なんでうれしくないことがあるもんかね。」と、年とったねこが、まぶしそうな目つきをして、いいました。
「いいえ、このつぎには、私が、またあなたのようになると思うからです。」
若いねこは、なつかしそうに病気のねこへ近づきました。
二ひきのねこは、たがいに顔を寄せ合って、体をすりつけるようにして、別れたのです。