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みいらのみみかざり

木乃伊の耳飾

国枝 史郎

「現代」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,905 字 · 12 页

青空文庫

大英博物館の宝庫から、古代埃及の耳飾が、一双忽然と失われてから、約一年を経過した時、仏蘭西巴里の交際社会の、女王と云われて栄華いている、モンタギュー卿の夫人の室で、斯う云う言葉が発せられた。そう云ったのは夫人であって、夫人の前の卓の上には、金剛石を鏤めた巨大の耳飾が一つだけ、燦然と置かれてあるのであった。そして夫人と相対して、一人の支那人が腰かけていた。これが耳飾の売人らしい。

「兎に角購買て置きましょう。金剛石一つだけ取り外して頸飾にしても立派ですわ」

支那人は恭しく一礼して、与えられた手形を懐中し、そのまま邸を退出した。

然るに同じ其頃に、支那上海に仮寓している清朝名残りの親王家の、東洋風の応接間で、同じような交渉が行われていた。

即、竹細工の卓の上には、一個の耳飾が置かれてある。その向うには親王家の最愛の妃として世間に知られた、蓮夫人が腰かけている。それに対して坐っているのは、仏蘭西人の宝石商。そして全く同じ言葉が、蓮夫人に依って発せられた。

「まあ素晴らしい耳飾! 幾万円出したって惜しくはない! けれどほんとに惜しいことね、一つしか無いじゃありませんか」