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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
雨もこの時小降りになって、鼠色の雲が峰から峰へ動いて行く。が、次第に夕暗が迫って来るのが感じられる。
ふと路下の方で馬の嘶く声がする。透して見ると草山の麓に黒いものが動いている。
「オーイ」と声を掛けると、「オーイ」と下の方で応呼する。
「西洞まではもう近いかァー。」と訊くと「二里位はあるぞォー。」と言って草刈る手をやめて上を仰いでいる。まだ二里の路! 自分らは殆んど其処に立ちすくまずにはいられなかった。気が付くと其処でも此処でもザクザクと草刈る音がする。見ると路の直ぐ上の所にも馬を引いて来ている者が二組も三組もいる。
「何処かこの辺で泊めてくれる所はないかね。」と聞くと、「西洞まで行かっしゃれ、それまではねえだ。」といって、不思議そうに私らの方を見送っている。仕方がない西洞まで歩るくことにする。
路の両側には四、五尺にも余る草が伸びている。霧は次第に濃く群がってその草原の上を爬っている。其処此処に大小の小屋が眼に這入る、今の草刈どもの泊る小屋に違いない。
草原を過ぎて松林となった。路は平かに広くなって遂に益田川の岸に出た。なかなかの急流だ、その岸を伝って走る。