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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
庭へ下り、太い掛樋で山から引いて来てある水で顔を洗い、全身を拭うと、冷かな山気が肌に迫る。仰ぎ見ると、紺青の濃い空の色が、四方に立ち込んでいる山々の頂きに垂れかかって、朝日は流れの向う側の、松山の一面を赤く照らしている。
今日は久振りで市街のある所へ出られる。三、四日山の中ばかり歩いていたので、人家のある所が懐しい。今日は益田川の岸を下って高山の町へ這入るのだ。
日の光は次第に広く、峰から森、狭い谿、深い渓流の上までも射し込んで、目に入るものは皆透き通る位に鮮かだ。山の下の細径は谿の上を繞り繞って行く。
西洞から三里ばかり下りると、浅井という村へ出た、信濃から来る県道野麦街道は道幅が広く、電柱が遠く立ち並んでいる。久振りで知人に逢ったような気がした。
見座という村を通って、郡上根という小さな峠を越す。眼界がやや開けて稲田のつづいているのが目に這入る、この稲田のつづく果てに高山の町が立っているのだろう。ゴチャゴチャと不規則に立ち塞がっている山が次第に四方へ片づいて、人の住むべき地歩を少しばかり譲っているような気がする。
峠を越して四里高山の町の白壁が遠くに見え出して来た。