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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
うす青い、妙に澄んだ光が熊笹の上をすべる。樅の林がとぎれて少し明るくなるが、向うを見ると、まだ暗く厚く茂っている。その中に光が射し込んで縞を織っている。
切り倒したのか、自ずと倒れたのか、古い大木が熊笹の中に横たわっている。その上を踏み越え踏み越え登る。峰から谿から雲が次第に分れて、光は乱射する。物象の変化が如何にも不思議を思わせる。
ふと、行くての笹原の中で、何かうなる声がする。ぐう、ぐう、と断続して聞える。思わず立ち止った。「何だろう。」「何だろう?」と同じ問が四人の間に繰り返された。
関わず進んで見ると何か笹原の中に横になっている。傍の大木が倒れたものの上には、脊負子が立て掛けてあって、衣服が丸めて括しつけてある。それに、大きな刃広の鋸と、鉞が一丁、小さな瓢が一つ、括しつけてある。
「ああ人だ!」「人がいる。」と四人は木の上へ馳け上って見た。
老爺だ、六十ばかりの白髪頭の老爺が笹の中に長くなって顔を腑伏せて眠っている。「オーイ、どうした、オーイ。」と声を挙げて呼んで見ると、「ウーム」といいながら身を起す。見ると真紅な顔をして「アー」と大欠呻をしながら、目を擦っている。