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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
」
「大変な気焔だね、山の中で何をしていたんだい。」
「なあに、大勢で木を伐っていたんでさあ。」
「面白いだろうね。」
「若い奴ばかり集っておりますからね、ははははは。」
「寂しかないかね。」
「寂しいたって、お前様、仕方がねえ、せっせと稼じゃ、こうやって時々家へ帰るんでさあ。」
「他の者は?」
「他の奴らは未だ残っております、可愛そうに、若い奴らだから女を恋しがって、ね、それでも、俺のいう事を聞いて黙って働いていまさあ……。」
老爺は酒臭い息を吐きながら、脊負子を脊負って、大声で話し掛けながらやって来る。
入日は峰の雲に隠れてしまった。径は登り尽くして平らになった。樅の木が立枯れして、白く骸骨のようになって立っている。もう一度振返って見た。飛騨にはもう雲が落ちて、今日通って来た辺などの見当は少しもつかない。この山を向うへ下りると、またいつこの飛騨の地などへ来れるか分らんと思うと、懐かしいような気がして暫く立っていて見た。
下り坂の端に立った。ぱっと一道の虹が深谷の中から天に向って沖している。深い深い何丈とも知れない谿だ、ざあざあと水音らしい響が聞えて来る。谿底はもう薄暗い。