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こがらしのさかぐらから

木枯の酒倉から

坂口 安吾

聖なる酔っ払いは神々の魔手に誘惑された話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,163 字 · 22 页

青空文庫

武蔵野に展かれた宿の窓から、俺は時々頸をつき延して、怖るべき冬の情勢を探るのだ。すると、見渡す視野がばかに広茫と果もなくひろがってゆくのに、その都度瞠若として度胆を失ってしまうのだ。冬の広さを見ていると、俺は俺の存在が消えてなくなるように感じるものだから……

……こうして、木枯のうねりが亦一とうねり強くなると、俺はつい堪りかねて、ふっとあの酒倉を、思い出してしまうのだ。憎むべき酒よ、呪うべき酒樽よ、怖るべき冬よ、う、ぶるぶるよ。俺の恋心は果もなくつのって、俺の魂はいつの間にやら木枯の武蔵野を一ととびに、酒倉の戸の隙間から悪魔風な法式でふいとあの酒倉へもぐり込んでしまうのだ。すると酒倉の亭主は――

(ああ、彼の不愉快な幻術は、如何に俺を悩ますことか!)

――おもむろに觴をひねくりながら、まぎれ込んだ俺の魂をてもなく見破ってしまうのだ。彼は脂ぎった太くまん丸い顔をニタニタと笑わせる、そしてグイと一杯呑みほすと、いやに取り澄まして、やおら得意なる背亀坐を組み、おもむろに調息するのだ。見給え――彼は分身の術を用いて、さむざむと武蔵野に展かれた俺の窓から、脂ぎった顔のニタニタをぬっと現す。