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もくばはまわる

木馬は廻る

江戸川 乱歩

「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页

青空文庫

すると彼女は、何か彼がいたずらでもしたのではないかと気を廻して、お尻を撫で廻しながら、ぬれた顔をふり向けるのであった。

「まあ、たんと、おめかしをするがいい」

彼はそう云い捨てて、板囲いを出ると、その隣の機械場の隅に隠れて、抜取った封筒を開いて見た。と、今それをポケットから出す時に、ふと気がついたのだが、手紙にしては何だか少し重味が違う様に思われるのだ。で、急いで封筒の表を見たが、宛名は、妙なことには、お冬ではなくて、四角な文字で、難しい男名前が記され、裏はと見ると、どうしてこれが恋文なものか、活版刷りで、どこかの会社の名前が、所番地、電話番号までも、こまごまと印刷されてあるのだった。そして、中味は、手の切れる様な十円札が、ふるえる指先で勘定して見ると、丁度十枚、外でもない、それは何人かの月給袋なのである。

一瞬間、夢でも見ているか、何か飛んでもない間違いを仕出来した感じで、ハッとうろたえたけれど、よくよく考えて見れば、一途に附文だと思い込んだのが彼の誤りで、さっきの若者は、多分スリででもあったのか、そして、巡査に睨まれて、逃げ場に困り、暢気相に木馬に乗ってごまかそうとしたのだけれど、まだ不安なので、スリ取ったこの月給袋を、丁度前にいたお冬のポケットにそっと入れて置いたものに相違ない、ということが分って