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もくばはまわる

木馬は廻る

江戸川 乱歩

「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页

青空文庫

来た。

すると、その次の瞬間には、彼は何か大儲けをした様な気持ちになって来るのであった。名前が書いてあるのだから、スラれた人は分っているけれど、どうせ当人はあきらめているだろうし、スリの方にしても、自分の身体の危いことだから、まさか、あれは俺のだと云って、取返しに来ることもなかろう。若し来た所で、知らぬと云えば、何の証拠もないことだ。それに本人のお冬は実際少しも知らないのだから、結局うやむやに終って了うのは知れている。とすると、この金は俺の自由に使ってもいい訳だな。

だが、それでは、今日さまに済むまいぞ。勝手な云い訳をつけて見た所で、結局は盗人の上前をはねることだ。今日さまは見通しだ。どうしてそのまま済むものか。だが、お前は、そうしてお人好しにビクビクしていたばっかりに、今日が日まで、このみじめな有様を続けているのではないか。天から授かったこのお金を、むざむざ捨てることがあるものか。済む済まぬは第二として、これだけの金があれば、あの可哀相な、いじらしいお冬の為に、思う存分の買物がしてやれるのだ。いつか見たショーウィンドウの高い方のショールや、あの子の好きな臙脂色の半襟や、ヘヤピンや、それから帯だって、着物だって、倹約をすれば一通りは買い揃えることが出来るのだ。