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もくばはまわる
木馬は廻る
江戸川 乱歩
「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页
ところが、それにも拘らず、さて月給日が来て二十幾円かの袋を手にして、帰り途で買うのかと思っていると、そうではなくて、彼女の収入は、一度全部母親に手渡さなければならないらしく、そのまま例の四辻で、彼と別れたのだが、それから、今日は新しいショールをして来るか、明日は、かけて来るかと、格二郎にしても、我事の様に待っていたのだけれど、一向その様子がなく、やがて半月程にもなるのに、妙なことには、彼女はその後少しもショールのことを口にしなくなり、あきらめ果てたかの様に、例の流行おくれの品を肩にかけて、でも、しょっちゅう、つつましやかな笑顔を忘れないで、木馬館への通勤を怠らぬのであった。
その可憐な様子を見ると、格二郎は、彼自身の貧乏については、嘗つて抱いたこともない、ある憤りの如きものを感じぬ訳には行かなかった。僅か七円何十銭のおあしが、そうかと云って、彼にもままにならぬことを思うと、一層むしゃくしゃしないではいられなかった。
「やけに、鳴らすね」
彼の隣に席をしめた、若い太鼓叩きが、ニヤニヤしながら彼の顔を見た程も、彼は、滅茶苦茶にラッパを吹いて見た。「どうにでもなれ」