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もくばはまわる

木馬は廻る

江戸川 乱歩

「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页

青空文庫

というやけくそな気持ちだった。いつもは、クラリネットに合せて、それが節を変えるまでは、同じ唱歌を吹いているのだが、その規則を破って、彼のラッパの方からドシドシ節を変えて行った。

「金比羅舟々、……おいてに帆かけて、しゅらしゅしゅら」

と彼は首をふりふり、吹き立てた。

「奴さん、どうかしてるぜ」

外の三人の楽隊達が、思わず目を見合せて、この老ラッパ手の、狂燥を、いぶかしがった程である。

それは、ただ一枚のショールの問題には止まらなかった。日頃のあらゆる憤懣が、ヒステリィの女房のこと、やくざな子供達のこと、貧乏のこと、老後の不安のこと、も早や帰らぬ青春のこと、それらが、金比羅舟々の節廻しを以て、やけにラッパを鳴らすのであった。

そして、その晩も亦、公園をさまよう若者達が「木馬館のラッパが、馬鹿によく響くではないか。あのラッパ吹き奴、きっと嬉しいことでもあるんだよ」と、笑い交す程も、それ故に、格二郎は、彼とお冬との歎きをこめて、いやいや、そればかりではないのだ、この世のありとある、歎きの数々を一管のラッパに託して、公園の隅から隅まで響けとばかり、吹き鳴らしていたのである。