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みきかんのともに

未帰還の友に

太宰 治

「潮流」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,241 字 · 21 页

青空文庫

その時にあたり、僕たちは、実によからぬ一つの悪計をたくらんだのである。岡野金右衛門の色仕掛けというのが、すなわちそれであった。菊屋にはその頃、他の店にくらべて酒が豊富にあったようである。しかし、一人にお銚子二本ずつと定められていた。二本では足りないので、おかみさんの義侠心に訴えて、さらに一本を懇願しても、顔をしかめるばかりで相手にしない。さらに愁訴すると、奥から親爺が顔を出して、さあさあ皆さん帰りなさい、いまは日本では酒の製造量が半分以下になっているのです。貴重なものです。いったい学生には酒を飲ませない事に私どもではきめているのですがね、と興覚めな事を言う。よろしい、それならば、と僕たちはこの不人情のおでんやに対して、或る種の悪計をたくらんだのだった。

まず僕が、或る日の午後、まだおでんやが店をあけていない時に、その店の裏口から真面目くさってはいって行った。

「おじさん、いるかい。」と僕は、台所で働いている娘さんに声をかけた。この娘さんは既に女学校を卒業している。十九くらいではなかったかしら。内気そうな娘さんで、すぐ顔を赤くする。

「おります。」と小さい声で言って、もう顔を真赤にしている。