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みきかんのともに

未帰還の友に

太宰 治

「潮流」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,241 字 · 21 页

青空文庫

荷物も大部分まだここに置いてあります。わたしは、その留守番みたいなもので。」

「田舎は、どこです。」

「埼玉のほうだとか言っていました。」

「そう。」

彼等のあわただしい移住は、それは何も僕たちに関係した事では無いかも知れないけれども、しかし、君のその「ノオ」の手紙が、僕と君が上野公園で別盃をくみかわしたあの日の前後に着いたとしたら、この菊屋一家の移住は、それから四、五日後に行われた事になる。何だか、そこに、幽かでも障子の鳥影のように、かすめて通り過ぎる気がかりのものが感じられて、僕はいよいよ憂鬱になるばかりであった。

それから半年ほども経ったろうか、戦地の君から飛行郵便が来た。君は南方の或る島にいるらしい。その手紙には、別に菊屋の事は書いてなかった。千早城の正成になるつもりだなどと書かれているだけであった。僕はすぐに返事を書き、正成に菊水の旗を送りたいが、しかし、君には、菊水の旗よりも、菊川の旗がお気に召すように思われる。しかし、その菊川も、その後の様子不明で困っている。わかり次第、後便でお知らせする、と言ってやったが、どうにも、彼等一家の様子をさぐる手段は無かった。