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みらいのてんさい

未来の天才

豊島 与志雄

「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页

青空文庫

と云って、そのまま止すわけにもゆかなかった。私は小包を抱えて、河野の後について外に出た。

薄い霧がかけていた。妙にむし暑いような大気が澱んでいた。私達は長い間街路を歩き廻った。淋しい裏通りで、松の枝がにゅっと頭の上に肱をつき出してるのを見ると、私は驚いて立ち止った。

「どうしたんだい。」と河野は云った。

「もういいだろう。」と私は心にないことを云ってしまった。

「では僕が投げ込んで来よう。なに心配することはないよ。うまくやってみせるから。」

静子の家まで十間ばかりの処へ行くと、私は黙って小包を河野に渡した。飛んでもない馬鹿げたことをしてるような気がしたが、すっかり興に乗ってる河野の様子を見ては、その云うままに従わなければならなかった。然し河野が行こうとすると、私は何故ともなく呼び止めた。

「一寸。」

「何だい。」

私は何と云っていいか分らなかった。頭の中がもやもやしてきた。

「いや、いいからやっつけてきてくれ。」と私は吐き出すように云った。

「やっつけるとは面白いな。よし、待ってい給え。」

私は其処に佇んで、霧闇の中に隠れてゆく河野の姿をじっと見送った。胸が妙に動悸してきた。