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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
私はその手紙を巻き納めて、それから改めて五百円を前に据えて、さて、考え初めた。全く自分の自由に使っていいとなると、一寸適当な使途が見当らなかった。きりつめた生活をしてはいたが、別に借金というものもないし、特に必要な物とてもなかった。思いあぐんでぼんやり室の中を見廻すと、卓子、椅子、机、書架、絵具箱、カンヴァス、額縁、凡てが貧しいなりにも満ち足っていた。足ることを知る者は富者なり、という所へもってきて、五七の桐を漉き込んだ五十枚だから、猶更あり難いような気がした。私は仕方なしに――嬉しいから仕方なしに、両膝を立てそれを両手に抱いて、臀の肉の上にゆらりゆらりと身体を揺り初めた。眼はいつしか天井を仰いでいた。あの天井から蜘蛛の子がすーっと降りて来たのだ! 私は微笑みにくずれかかる口元をそのままつぼめて、口笛を吹いていた。愉快だった。じっとしておれなかった。
私は立ち上りかけたが、また腰を下した。頭の中に一つの製作が形を取り初めた。壁に掛ってる自画像やダ・ヴィンチのモナ・リザが起縁となって、胸底に秘められてる愛が具体化されかけてるのであった。逆光線のうちに黄色っぽく浮出してる自画像に、私は、貧しい生活を苦闘しつつある青年の、悲痛な意志や希望やを表情させたつもりでいたのだが、今になってよく眺めると、その表情も単なる