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すえっこ
末っ子
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1957(昭和32)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,564 字 · 55 页
七
と平五が云った。
娘が「はい」と答え、それから暫くして平五がまた云った。
「ひと雨ほしいですね」
「はい」と娘が答えた。
「ああ」と急に平五が云った、「失礼しました、私は小出平五という者です」
娘は黙って低頭した。
「お待たせ申しました」と云いながら、清兵衛が紙にのせた銭を娘に渡した、「どうかお勘定なすって下さい」
娘は受取ってよくかぞえ、その紙で包んで袂へ入れた。そして清兵衛と平五とに会釈をし、静かに店から出ていった。平五は上り框へ腰を掛け、清兵衛が奥へ、「茶を持って来い」と命じながらくすくす笑った。
「どうなすったんです」と清兵衛が笑いながら云った、「三年もまえにもう名のっていらっしゃるじゃありませんか、お忘れになったんですか」
七
「そうだったかな」と平五はとぼけた、「そんなことはどっちでもいい、今日は頼みがあって来たんだ」
とぼけたけれども事実はそのとおりで、ずっとまえにいちど名のったことがあり、そのとき娘の名も聞いたのであるが、話のつぎほに窮して、つい、まだ名のらなかったような気がしたのであった。
清兵衛は平五の頼みを承知し、さっそく心当りを捜してみようと云い、それからふと思いついたようすで、脇に置いてあった白鞘の短刀を示した。