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すえっこ

末っ子

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1957(昭和32)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,564 字 · 55 页

青空文庫

それなら家柄もくそもない、同じことじゃないか、そう云おうとしたのであるが、そのとき、脇のほうでかすかに嗚咽の声がしはじめ、見ると、みのが袂で顔を掩っていた。

「失礼致しました」と平五はようやく自分を抑えて云った、「私のお願いのしようが悪かったのでしょう、この話はまた改めて申上げることにします」

「いいえお断わり致します」としのぶが云った、「そのお話ならもううかがう必要はございません、おいでになることもお断わり申します」

「失礼しました」と平五はみのに云った。

刀を持って外へ出、路次をぬけて通りへ出ると、平五は堀端へいって立停った。

「あれが、――」と彼は荒い息をしながら呟いた、「あれがおやじの云う、侍だましいというやつなんだな、ひどいもんだ、まるで歯が立たなかったじゃないか、今年はやっぱり厄年だぞ」

彼は急に振返った。うしろに人のけはいを感じたのであるが、振返ると、みのがこっちへ来るところだった。平五のあとを追ってすぐに来たのだろう、そばまで来ると立停り、また袂で顔を掩ってむせびあげた。追っては来たけれども、それ以上どうしようもない、口もきけないというようすである。