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ほんだな
本棚
宮本 百合子
「書斎」1941(昭和16)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,015 字 · 8 页
省吾叔父がそこに暮していた座敷である。
いろんな目立たない隅々から古い本棚だの古い本だのをもって来て、下見窓のわきに並べた。その最初の蒐集の中に、今再び埃の下から現れた赤いクロースの『太陽』だの『美奈和集』だの、もうどこかへ行って跡かたもない黒背皮の『白縫物語』だの『西鶴全集』の端本だのがあった。ポーの小説集二冊を母が何かの拍子で買って来てくれたことから、次第に私の本棚にはワイルドだの、小川未明だの、ダヌンツィオだのが加って行った。ワイルド警句集という小型の本も今度出て来た。あけてみると、ところどころに赤鉛筆でマルがつけてある。
それからひとりでに武者小路実篤の初期の書いたものだのロシアの作家の作品だのが殖えて来たのを思えば、知らず知らずのうちに明治末期から大正への文芸潮流が、七畳の隅の、粗末な本棚と、まだ半ば眠った女の子の心とを貫いて移ったことが考えられる。
今度の本片づけには、全く歴史のきつい波翳がさしていて、私は空襲の場合を屡々思いやった。
震災の時は、災難をのがれた。これらの本たちは、そこにまつわる生活の思い出とともに、これから先は何年、平安にその頁を黄ばませて行けるのだろうか。