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すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
杉子は新しい積極な気持で、その集りに出た。相変らず言葉すくなくそこに加っていることは同じ心でも、今の杉子はそこにある雰囲気よりもそこで本当に語られることは何かということを理解したいと思うのであった。
伊田が近代劇の発生の歴史について書いたものを読んだ。
五時ごろ解散になって、杉子と伊田は神田で本屋をやっている仲間の家から、聖橋へ向ってぶらぶら歩いていた。さっぱりとした西風に吹かれて夕焼雲がしずかに漂っている初夏らしい夕方であった。ニコライのドームの古びた白堊の壁に遠い空からの夕映えが微に映っているような広い改正道路の風景には、そこを歩いている杉子自身を小さい点景の人物のように思わせる面白さがあった。
濃緑のネクタイを風にふかせていく伊田と並んで赤い書物入の鞄を振るようにして快活に歩いていた杉子は、後から来た靴音で何心なく歩道の内側へよけようとした。するとその靴音はそのまま追いぬいて行かず何となしわざとらしさで二三歩跟いて来たと思うと誰かが杉子の右肩にちょっと触れた。
防衛するようにその肩を捩ろうとしたとき、
「杉ちゃん」
ひょいと出た顔を振仰ぐと、杉子は覚えず、