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むらからのむすめ
村からの娘
宮本 百合子
「文化集団」1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,485 字 · 9 页
ときくと、とし子は、いかにもきまりわるそうに苦笑して静に頭を横にふった。
「いいえ、人間や自転車や自動車が、いくらでもくるもんであぶなくってどうにも歩けないんだが……」
そういう十六のとし子の心持も私を或る実感で打ったし、女中という、都会の小市民の家庭の中での一つの役割とその型とになかなかはまれず、主婦としての民子は、やっと一ヵ月も経って、とし子の態度が軟らかくなって来たのに些か安堵するというところも、はっきり都会の主婦の常識というものがうかがえて、私にいろいろのことを考えさせた。
東北の飢饉地方から、売られて汽車にのせられ、東京へ出て来る娘たちの年頃は、皆この小説に書かれている十六のとし子と同じ年かその下が多い。身売り防止会は、それらの田舎出の娘たちを一通り仕こんで方々の家へ女中として世話しているのであるが、その娘たちの心の中には、このとし子とは違うか、又全く同じような当惑や、型に入れぬ工合わるさがあるだろうし、多かれ少なかれ持っている田舎の朴訥さ、一本気が段々くずされて都会に所謂馴らされてゆく過程にも、痛々しいものがないとは決して云えぬことを、私は感じたのである。