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むらへかえったしょうへい
村へ帰った傷兵
小川 未明
「日本の子供」1940(昭和15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,124 字 · 9 页
すると、その人は、
「ご苦労さまでした。どこをおけがなされましたか。」と、静かな調子で、たずねました。
「ああ、私の傷ですか、こちらの腕をやられました。」と、清作さんは左の腕を指しました。そして、よく戦傷徽章に目をつけて、たずねてくれたと、深く心に感謝しながら、じっとその人を見たのであります。
「おお、それは、この寒気に、傷口がお痛みになりはしませんか? 私は、若い時分シベリア戦役にいったものです。いまでも死んだ戦友のことや、負傷した友だちのことを片時もわすれることがありません。」
その老人の目はかがやき、言葉は熱をおびて、顔かたちにしみじみと真情があらわれていました。これをきくと、清作さんは、はじめて見るこの人にたいして、かぎりなき懐かしさと敬意を表せずにいられません。しぜんとその人の前に頭が下がるのを感じました。
ほどなく、電車がきたので乗ったけれど、停留場で見送る、老人の顔が、いつまでも頭に残りました。おりあしく、その電車は満員でした。彼は、右手でしっかりと釣り革にぶら下がっていたが、あちらへおされ、こちらへおされしなければなりませんでした。そして、こんなばあいに、これらの人たちが、彼の徽章に注意すると考えるこそ、まちがっていたのでありましょう。