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ひがしやまじだいにおけるいちしんしんのせいかつ

東山時代における一縉紳の生活

原 勝郎

「藝文」京都大学文学部、1917(大正6)年8月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,142 字 · 134 页

青空文庫

惜しいことではあるけれど、やむを得ず売り払ったとあるからには、活計の都合によったものであろう。享禄二年は永正三年を隔つること二十三年であるから、二度目に売った源氏というのは、おそらくこの間に新たに書写したのであろう。ただし永正三年に売った時には、それと入れかわりに、破本の『源氏』を四百五十疋で買い入れたとあるからして、あるいはその不足分七冊のみを実隆がみずから補写し、それを享禄二年に売ったのかも知れぬ。二度目に売った時は、実隆の齢すでに七十五で、またと五十四帖を写すこともできず、その残り惜しさは推し測られる。

実隆の書はかくまでに広く上下に持てはやされたが、しかしながらその持てはやされたのは、たんに彼が上手な書家であったためばかりではない。彼の文藻があずかって大いに力あるのだ。彼は歌人であり、連歌師であるのみならずまた漢詩をもよくした。作者として抜群なのみでなく、『万葉』『古今』等の古典的歌集はもちろんのこと、そのほかに物語類、歴史類にもかなり通暁し、また漢籍の渉猟においても浅からざるものがあった。みだりに美辞麗句を連ぬるのみでなく、彼の思想の根柢には、浄土教より得たるところの遒麗と静寂とを兼ねたものがあった。