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ひがしやまじだいにおけるいちしんしんのせいかつ

東山時代における一縉紳の生活

原 勝郎

「藝文」京都大学文学部、1917(大正6)年8月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,142 字 · 134 页

青空文庫

言語不通の外国に旅行しても、なお一種の興味を感ずるのはすなわちそれだ。というとあるいはその場合における興味は不安の念からして来るのではなくして、新奇なる事物に接触することから来るところの快感だというかも知れぬが、新奇なものが何故に快感をひき起こすかというに、それもやはり不安の念を発せしむるからではあるまいか。不安の念はすなわち驚喜の感の前提である。何ごとも予期どおりになることのみが必ずしも旅行の興味ではない。一つ卑近な例をとってこれを説明しよう。わが国で数年前に茶代廃止運動というものがあった。この運動の目的は、旅行者のために無益の費用を節減すると同時に、置くべき茶代の額を見計らいする心配を除こうというにあったのだが、この心配を除くのがすなわち不安排除だ。ちょっと考えると誠に結構な運動のようであるが、この運動は一時多少景気づいたけれども、間もなく廃たれてしまって、今日このごろでは茶代廃止旅館などという看板を出しておく宿屋はほとんどなくなった。しからば何故にこの美挙が失敗に終ったかというに旅客が浪費を好むからだというわけではない。他にもいろいろ原因があろうけれど、主として不安の念を勦絶しようといういらぬ世話が旅客に好まれぬからだ。