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ひがしやまじだいにおけるいちしんしんのせいかつ

東山時代における一縉紳の生活

原 勝郎

「藝文」京都大学文学部、1917(大正6)年8月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,142 字 · 134 页

青空文庫

先ず幕府の有力者からして、前もって近国の大小名らに、何某近々旅行の件を触れてもらえば、それで途中の旅宿に心配はない。野心ある武人のお宿はどこでも喜んで引き受けるというわけに行かぬが、公卿なればどこでも歓迎する。危険はないのみならず、連歌をやったり蹴鞠をやったりして、田舎生活の単調を破ることができるからである。ちょうど今の人が漫遊の書画家を歓迎するようなもので、なおその上に高貴の人を宿し、親しくこれに接し、もって一つには家門の誉れ、一つにはこれによって己らの麁野なる生活状態に研きをかけたいという希望も添うのである。したがって彼らは遍歴の公卿のために宿を貸し、路銭を給し、乗物を供給することをいとわない。たいして歓迎せず自己の館に泊めぬにしても、然るべき旅宿、多くは寺院に案内して、相応の待遇をなしたものだ。故に公卿らは、その遍歴に際してほとんど何らの危険なきのみか路用がほとんど入らずして、かえりて少なからぬ貰いがある。はなはだしきに至っては、出発の最初から無銭旅行で、然るべき幕府の武人に無心し得たものを持って、踏み出す連中もある。ほとんど名義のみとはいえ、とにかく朝廷に官職を帯びた者どもが、勝手に旅行をして公務に全く差支えがなかったかというに、それはもちろんのこと差支えがあったのだ。