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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

しかし武太夫は身分こそ賤いが腕は相当に冴えているので、追手の者たちだけでは捕え兼ねるところから、南部家よりの書状を提出するとともに、何分の便宜を頼むと申入れてきた。

「お上にはこれを聞かれて、それでは蝙也の手で捕えたうえ引渡してやれとおおせられたのでござる、――いかがであろうか」

「承知仕った、拙者が捕えましょう」

蝙也はすぐに承諾した。

「早速の御承引でかたじけない、では何かお指図でもあらばただちに手配を仕りましょう」

「なにべつに仔細ござるまい。ああ、――御貴殿の組下に小具足取りの手利きがいましたな」

「鈴木伝右衛門と申す、あれ」

「あの仁をお差廻し願いたい、日暮れ過ぎに出張仕るから」

「承知致した、では何分よろしく、――」

と主水は帰って行った。

蝙也は何ごとも無かった様子で、常のとおり夕景まで稽古を続けた。――やがて目附役から差廻されて、小具足(捕手術)の鈴木伝右衛門が来たから、稽古をしまって支度を換えようとした。ところが町の姿が見えない。

「町はどうした」

と訊くと、内弟子の一人が、

「先程山根様と一緒に中庭のほうにいらしったと存じますが」

「山根? ……見て参れ」