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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

云いおいて風呂へ入る、体を流して出る頃に帰って来た内弟子が、

「どこにも見えませぬ」

「山根もいないのか」

「はい、――」

蝙也はちょっと眉を曇らせたが、べつに何も云わず、食事の支度を命じて軽く済ますと、納戸から拳大の鉛の塊を取出してきて布に包み、中脇差だけ帯して、

「お待たせ申した、参りましょう」

と伝右衛門を促して道場を出た。

その旅籠というのは国分町の端れにある二階造りで、軒に『武蔵屋』と掛行灯が出してある、まああまり上等でない宿屋だった。――蝙也はつかつかと入って行って、

「当家に婦人を連れた南部の武家がいるはず、面談したいことがあると申入れてくれ」

と云った。宿の者は不審そうに、

「はて、南部のお武家……」

「他にも武家の客がいるか」

「いえ、お武家様はひと組だけで、いかにも御婦人連れでござりますが、たしか出羽の御藩中とか」

「それに違いない、よいからその者に申せ、南部藩より上意をもって召捕りに参った、宿の周囲は伊達家の人数で固めてある、唯今参るから神妙に致せ――と、分ったか」

「へ、へい」

亭主は蒼くなって飛んで行った。――伝右衛門は訳が分らぬという顔で、