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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

門人の中にも武家の女性が多かったし、町家農家の女たちからも一種の信仰に似た崇拝を受けていた。これは武州にいた頃も、仙台へ移ってからも同様であって、良い意味において常に彼の周囲には女性の姿が絶えなかったと云われている。

ある年のこと、蝙也は身辺の世話をさせるために一人の侍婢を雇った。当時の習慣としてこれは側女であるが、べつにその女の色香を愛したわけではなく、彼女の家がひどく窮乏していたので、三年間の給金をもってその家族の急場を救ったのであった。

女の名は町といった。色白で体もすんなりと伸び、眼鼻だちも十人並を越えて美しかったが、起居振舞が鮮かに過ぎ、眉間にきつい肯かぬ気を見せていた。――来た夜から蝙也の身の廻りの世話を始めたが、口数も尠く表情も冷やかでいかにも眤みにくい感じだった。

彼女が来て二十日ほど経ったある宵のこと、午過ぎから来ていた四五人の女客を送出して、蝙也が居間へ入ってみると、町が悄然と窓際に坐って涙を拭いていた。

「――どうした、町」

彼女が泣くなどというのは珍しいので、蝙也は微笑を含みながら訊いた。

「家でも恋しくなったか」

「いえ……」