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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
「現代」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,862 字 · 26 页
四
四
八郎兵衛が発見されたのはその騒動のさなかであった。彼は城下の南方七里にある鬼ヶ城山の奥で、滑床川の深い谿谷を遡った「白狐の窟」からみつけ出された。洞窟の中で坐禅をしていた彼は、飢えと寒気のためにすっかり憔悴し、足軽の背に負われて帰るのがやっとのことであった。それは折から河内村を中心にして、今にも農民たちが一揆を起そうとしていたときで、宗利も八郎兵衛のことなどに構っている暇はなく、騒動を未然に防ぐため日夜心を砕いていた。
家へ帰った八郎兵衛は十日あまり養生して、どうやら元気を恢復すると、一応伺いを差出した後登城をした、宗利は彼を見ると直ぐ、あの頃の小次郎の俤がそのまま残っているのを見て驚いた。
「白狐の窟にいたそうではないか」挨拶を終るのも待たず宗利が云った、「余の帰国することは知っていたであろう、迎えもせずにそんな処へ隠れて不届きだとは思わぬか、……なにか仔細でもあったのか」
「不調法を仕りまして申訳ござりませぬ、ふと、思いついたことがございましたので、御帰国までには必ず立戻る心得で出掛けたのでございますが、心懸けた事がなかなか思うようにまいらなかったものですから」