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そめきちのしゅぼん

染吉の朱盆

国枝 史郎

「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 页

青空文庫

「朱盆の有無しを確めに来たあの男が染吉だ」

そこでお縫様いったものである。

「どんなお望みにでも応じます。『思ひそめしが』と六文字を入れた、この盆と対の朱塗の盆を、ぜひともおつくり下さいますよう、その名人の染吉さんに、あなたからお頼みして下さいまし」

翌日蒔絵師はやって来たが、返辞は意外なものであった。

「こう染吉は申しました。『そのお嬢様のお頼みがなくとも、私の方からお作りし、そのお嬢様へ差上げようと、この日頃苦心しているのですが、とても望みは遂げられますまい。まあ見て下さい。この体を! すっかり痩せて衰えて、骨と皮ばかりになりました。実は私はその盆と一しょに、心を捧げようと思っていたので。ああそうです、お嬢様へ……思いそめしが! 思いそめしが!』……お嬢様どうやら染吉は死んでしまいそうでございますよ」

果して名工染吉は、その後間もなく死んでしまい、お縫様も間もなくなくなってしまった。なくなる間際までお縫様は、最後の盆をほしがった。で、口癖のようにいったそうである。

「思いそめしが、思いそめしが」

「ね、兄貴、話といえば、ざっとこういったものなのさ」

話し終えた岡引の半九郎は、変に皮肉に笑ったものである。