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ざくろ
柘榴
山本 周五郎
「サン写真新聞」サン写真新聞社、1948(昭和23)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,342 字 · 25 页
その人へ後の月の招きを出す積りだったのだ。――墨を磨り、紙をのべて、筆を手にしながら書きだしを考えていると、どんな連想からだろう、とつぜん真沙の頭に奇妙な疑いが湧きあがった。それは伊助が良人の昌蔵ではないかということだ。この奇妙な疑問が、なにを根拠に起こったかわからないが、ふとそう思ったとたんに、非常な確実性をもって真沙の頭を占領した。それは八年のあいだ、無意識に溜めていた印象の断片が、自然の機会を得て、一つのかたちを成したとも云える。
「ああ」真沙は低く呻きながら筆をおいた。
樫木が伐倒されたのであろう、だあっと凄まじい物音がし、地面が揺れた。
真沙は身震いをした。柘榴、――松室へ嫁したはじめの頃、昌蔵は柘榴の実を割って、その美しい種子粒を妻の躯に譬えた。伊助は納屋の前で掌に同じものを載せ、近づいて来る人のけはいにも気づかぬほど熱心に眺めていた。あのときの度外れな驚きようは、単にぼんやりしていたための驚きだろうか。……真沙の潜在意識の中から、八年間のあらゆる記憶が甦ってくる。彼の身振り、言葉の端はし、笑う口つき、ものを見る眼もと、そしてまた柘榴。