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けいまのげんそう
桂馬の幻想
「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页
そう考えて、野村はこれを忘れることにしたのである。
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観戦記の原稿を届けにでた野村は、木戸が新聞社から金を受けとってでたままずッと行方が知れないことを知った。彼の次の対局は二週間後に行われる予定で、彼も承知のことではあったが、その対局もまぢかに迫っていたので、新聞社でも多少は気をもんでいる様子であった。その行先はあるいは、と、野村は例の心当りを云いたくなったが待て待てと言葉をおさえたのである。若者の秘密の行先は天下に多い。うっかりバカな見込みを云いたてて、彼の恥も自分の恥も一しょにさらけだしては大変だ。
幸い次の対局に彼は姿を現した。天下の強豪との対局中に二時間ちかくも行方をくらますほどのずぶとさだから、平時に十日やそこいら行方をくらましてもフシギはないわけで、取越苦労をする方がバカだったかと野村は思った。
野村はこの対局には関係がなかったから出かけなかったが、木戸は自信満々の様子だったそうである。むろんこの相手もAクラスの強豪だった。
ところがこの一戦は木戸に良いところがまったくなかった。中盤すでに歴然たる敗勢で、押されに押されてずるずると押し切られた。