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けいまのげんそう
桂馬の幻想
「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页
いわば全てが一途にはりきったきびしい気魄のみであって、その裏側にあるべきはずの驚きや怖れが欠けているのだ。いわば無智の象徴と云うことができるかも知れぬ。敵のみを知りうる無智。闘うことを知るのみの無智。木戸がその顔に四五桂を見てそれが読み切られた四五桂であると確信したのは、極端に無智な闘魂に負けたからではあるまいかと野村は思った。この顔から急所の四五桂を見てとるのはむしろ無理だが、殺人を感じたことは肯きうるかも知れないと野村は思ったのである。
「そのセーターを返してもらいにきたわけじゃアないがね」
と野村は笑って云った。
「実はね、おききしたいことがあるのだが、例の和服に袴をはいた若い先生がその後ここへ来なかったかね」
「そんな奴は来ないよ」
と娘はブッキラボーに答えた。
「来たと思うんだが……」
「来ないと云ったら来ないんだ。逆らうわけでもあるのかい。いまごろセーターをとりに来たってありやしないよ。あきらめて、早くおかえり。かえれよ」
「それは失礼した。いくらだね」
「茶代もいれて三十円」
「十円の値上げだな」
「二度とくるな」
まるでもう丸太ン棒のような文句で叩き出されてしまったのである。