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けいまのげんそう

桂馬の幻想

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页

青空文庫

まことに自然で、人生の深処に達した風格が感ぜられる様であった。

「よくできとるじゃないか。どうも、お見それしたな。オレも先祖の大婆サンに会ってるような気がしてきたよ」

野村はシャッポをぬいだ気持であった。

「まったくですよ。彼女は第一印象や尊大な外観とは反対に、凄みや妖怪的なところは実際はないのですよ。彼女が病気のオヤジサンを大八車に荒ナワでしばりつけて坂道を大いに荒っぽく手心しながらガッタンゴットンひきずり降したことだって、要するにただ運動ですね。たとえばアリが物を運ぶ運動。そして病人は居ない方がよいという、これも単に精神上の運動ですよ、女王蜂がオス蜂を殺すような運動です。そこに罪悪はありませんが、翳はあります。人間が見れば女王蜂の殺人運動にも翳は見るものなんですね。ボクはその翳を見たのです。それが四五桂だったんですね。この四五桂に錯覚しなかったのは、せめてもボクの誇りなんです。ボクが盤の生活よりもこの生活に真実を見出していることを察していただけるでしょう。もっとも彼女の目から見れば、ボクの見出した真実がまだ何程のものでもないことは、これも当然ですがね」