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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

梅崎春生『桜島・日の果て・幻化』。同一底本的分册已合并为一书。收入:桜島、日の果て、幻化、風宴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 页

青空文庫

女といちゃつくんなら此処だって出来る」

背筋に粟の立つような嫌悪感が宇治を襲った。それに堪えながら彼は後にさがり、入口の処まで出て来た。土間に垂らした脚を引き上げて、男はきらきら光る瞳をまっすぐに宇治にそそいだ。張った顎のあたりが何か酷薄な感じで宇治に迫って来た。

「あんたも何で花田中尉に用があるのか知らないが、もう追っかけるのは止しにしなさい。逃がしてやっても良いだろう」

「――用があるんだ」宇治は素気なく答えた。

「用はあるだろうさ」ふてぶてしく顎をしゃくった。「もうサンホセの日本軍も近いうちに追いまくられて、東海岸に逃げて行くようなことになるんだ。逃亡兵がぞろぞろ出ているじゃないか。今逃げたって後で逃げたって同じだよ。司令部がもう浮き足立っていると言うじゃないか」

宇治は顔を蒼くして、黙っていた。男の言い方が急に捨て身になって来た理由をはかり兼ねていた。舐めてかかって来たのかと思った。男は太い濁った声で笑い出した。

「あんたも逃げて来た口じゃないのか」

男の顔は笑っていたが眼は険しく笑っていなかったのだ。かっと頬が熱くなり思わず再び進み入ろうとしたとたん、扉口に影がさして高城が戻って来た。