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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

翁は毎朝未明(夏冬によって時刻は違うが)に必ず起上ってタッタ一人で袴を着け、扇を持って舞台に出て、自分で謡って仕舞の稽古をする。翁の養子になっていた梅津利彦氏(現牟田口利彦氏)などは遠方の中学校へ行くために早く起きようとすると、早くも翁の足踏の音が舞台の方向に聞こえるので、又夜具の中へ潜り込んだという利彦氏の直話である。こうした刻苦精励が翁の終生を通じて変らなかった事は側近者が皆実見したところであった。

前記の通り晩年、足腰が不叶いになって臥床するようになっても、稽古人が来ると喜んで、仰臥したまま夜具の襟元でアシライつつ稽古を附けてやった。傍の人が、余りつとめられると身体に障るからといって心配しても、「何を云う。家業ではないか」と云って頑として稽古を続けた。

◇

弟子に対する稽古の厳重、慎重であった事は、事柄が事柄だけに最も多く云い伝えられている。殆んど数限りがない位である。

翁の弟子には素人玄人の区別がなかった。又弟子の器用無器用、年齢の高下、謝礼の多少なぞは一切問題にせずに、殆んど弟子をタタキ殺しかねまじき勢いで稽古を鍛い込んだ。