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もりのいしまつ
森の石松
山中 貞雄
「シナリオ・臨時増刊号」1937(昭和12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,949 字 · 49 页
「御本人に出られちゃ俺達の方は一文にもならねえや」
安五郎又将棋を始める。
「此の角は痛いね、どう考えても痛いね……手には?」
「へッ?」
「吉兵衛、手は何だ」
「手には金銀に桂二枚」
「そうか、そうだったな。金銀に桂二枚か金銀に桂二枚と」
「へえ親分へ」
児分が襖の処へ次郎長を案内して来る。
「なんだ」
「お連れ申しました。この方が清水港の長五郎と云う方で……へえ長五郎さん、向って右が武井の御貸元、左が都田村の吉兵衛親分で御座います」
次郎長が安五郎に、
「初めてお目にかかります。お楽しみ中を真に恐れ入ります。手前、清水の次郎長、御見知り置かれて幾久しく御別懇に願います」
「ああお前さんか、次郎長と云うのは? 儂が武井の安五郎だ。何の話か知らねえが丁度今将棋の面白え処だ。もう直き済むから済んでから話を聴こう。それまでお茶でも呑んで待っていて呉れ。おい新太、お客人にお茶出しな」
「へえ」
「さてと……吉兵衛、儂の番だったな」
「へえ」
次郎長、児分に、
「茶は要らねえ。俺は茶を呑みに来たんじゃねえんだ」
と言って立ち上る。
石松と七五郎固唾を呑む。