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もりのえ
森の絵
寺田 寅彦
「ホトトギス 第十巻第四号」1907(明治40)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,921 字 · 4 页
暖かい縁に背を丸くして横になる。小枝の先に散り残った枯れ/\の紅葉が目に見えぬ風にふるえ、時に蠅のような小さい虫が小春の日光を浴びて垣根の日陰を斜めに閃く。眩しくなった眼を室内へ移して鴨居を見ると、ここにも初冬の「森の絵」の額が薄ら寒く懸っている。
中景の右の方は樫か何かの森で、灰色をした逞しい大きな幹はスクスクと立ち並んで次第に暗い奥の方へつづく。隙間もない茂りの緑は霜にややさびて得も云われぬ色彩が梢から梢へと柔らかに移り変っている。コバルトの空には玉子色の綿雲が流れて、遠景の広野の果の丘陵に紫の影を落す。森のはずれから近景へかけて石ころの多い小径がうねって出る処を橙色の服を着た豆大の人が長い棒を杖にし、前に五、六頭の牛羊を追うてトボトボ出て来る。近景には低い灌木がところどころ茂って中には箒のような枝に枯葉が僅かにくっ付いているのもある。あちらこちらに切り倒された大木の下から、真青な羊歯の鋸葉が覗いている。
むしろ平凡な画題で、作者もわからぬ。が、自分はこの絵を見る度に静かな田舎の空気が画面から流れ出て、森の香は薫り、鵯の叫びを聞くような気がする。